ベクトル解析を勉強していると、grad(勾配)の次あたりで突然「div(発散)」が登場します。
定義だけを見ると、ベクトル場 A=(A_x,A_y,A_z) に対して、
\[\mathrm{div}\,\mathbf{A}=\nabla\cdot\mathbf{A}=\frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}+\frac{\partial A_z}{\partial z}\]
と書かれます。
式そのものはそれほど複雑ではありません。しかし初学者がこの式を見ると、「なぜ x 成分を x で微分し、y 成分を y で微分して足すのか」「そもそも何が“発散”しているのか」「答えがベクトルではなく数になるのはなぜか」と疑問が残りやすいところです。
そこでこの記事では、公式を暗記するのではなく、まず水の流れのようなベクトル場を考え、次に小さな箱から出入りする量を計算します。そこから div の式を作り、最後にガウスの発散定理や電磁気学のガウスの法則へつなげます。
この記事の目標は、div を見たときに「偏微分を3つ足す公式」ではなく、「その場所がベクトル場の湧き出し口なのか、吸い込み口なのかを測る量」としてイメージできるようになることです。

まず結論:div(発散)は「その場所から正味どれだけ湧き出しているか」
最初に、発散の意味をできるだけ短く言ってみます。
div は、ある点のごく近くを囲んだとき、その中からベクトル場が正味どれだけ外へ出ていく傾向があるかを、単位体積あたりで表したスカラー量です。
たとえば水の速度を矢印で表したベクトル場を想像してください。ある場所から四方八方へ水が湧き出しているなら、その場所の div は正になります。反対に、排水口のように周囲から水が集まって吸い込まれているなら div は負です。
一方、一定の速さで右向きに流れているだけならどうでしょうか。箱の左面から入ってきた水と、右面から出ていく水が同じ量なら、箱の中で水は増えていません。この場合、流れそのものは存在していても div は 0 です。
| ベクトル場の様子 | div | イメージ |
|---|---|---|
| 周囲へ正味で出ていく | 正 | 湧き出し・源 |
| 入る量と出る量が等しい | 0 | 素通り |
| 周囲から正味で入ってくる | 負 | 吸い込み・沈み込み |
ここで大切なのは、矢印が大きいか小さいかだけを見ても div は分からないということです。div が見ているのはベクトルそのものの大きさではなく、「場所を少し移動したときに、その成分がどう変化するか」です。
そもそも「ベクトル場」とは何か
div を理解するには、まずベクトル場という言葉を整理しておく必要があります。
普通のベクトルは、たとえば
\[\mathbf{A}=(2,1)\]
のように、向きと大きさを持つ1本の矢印として考えられます。
これに対してベクトル場は、空間のそれぞれの位置にベクトルが割り当てられたものです。2次元なら、
\[\mathbf{A}(x,y)=\left(A_x(x,y),A_y(x,y)\right)\]
と書けます。
たとえば、
\[\mathbf{A}(x,y)=(x,y)\]
なら、原点では (0,0)、点 (1,0) では (1,0)、点 (0,1) では (0,1)、点 (2,1) では (2,1) というベクトルになります。原点から遠くなるほど外向きの矢印が長くなるベクトル場です。
物理では、ベクトル場は珍しいものではありません。流体の速度場、電場、磁場、重力場などは、どれも「場所ごとに向きと大きさが決まる量」なのでベクトル場として扱えます。

1次元から考えるとdivの正体が見えやすい
いきなり3次元の式を見ると分かりにくいので、まず1次元で考えてみましょう。
x 軸上を流れる量 A_x(x) があるとします。小さな区間を1つ取り、その左端を x、右端を x+\Delta x とします。
左から入る量を A_x(x)、右から出る量を $A_x(x+\Delta x) $と考えると、この区間から正味で外へ出る量は、
$A_x(x+\Delta x)-A_x(x)$
です。
これを区間の長さ $\Delta x$ で割ると、
$\frac{A_x(x+\Delta x)-A_x(x)}{\Delta x}$
となります。そして$\Delta x$を限りなく小さくすると、微分そのものになります。
$\frac{dA_x}{dx}$
つまり1次元では、流れの成分が進行方向にどれくらい増えているかを微分すれば、その場所での湧き出し・吸い込みの傾向を測れます。
たとえば A_x=x なら、
$\frac{dA_x}{dx}=1$
です。右へ行くほど右向きの流れが強くなるので、小区間を見ると、左から入る量より右から出る量の方が大きくなります。したがって正味の流出があり、発散は正です。
一方、A_x=5 のような一定の流れなら、
$\frac{dA_x}{dx}=0$
です。水は勢いよく流れていたとしても、左から入った分と同じだけ右から出ます。したがって、その場所で新しく湧き出しているわけではありません。
この1次元の考え方が、そのまま3次元の div の出発点になります。

2次元の小さな箱で「出る量−入る量」を数えてみる
次に2次元へ進みます。ベクトル場を、
\[\mathbf{A}(x,y)=\left(A_x(x,y),A_y(x,y)\right)\]
とします。
点 (x,y) の近くに、横幅 \Delta x、縦幅 \Delta y の小さな長方形を置いてみましょう。
この長方形には左・右・下・上の4つの辺があります。x 方向の流れは主に左右の辺から出入りし、y 方向の流れは上下の辺から出入りします。

x方向の出入りを考える
右側の辺から出ていく量は、おおよそ A_x(x+\Delta x,y)\Delta y です。左側では外向き方向が −x 方向なので、正味の外向き流出として考えると左右の差は、
\[\left\{A_x(x+\Delta x,y)-A_x(x,y)\right\}\Delta y\]
となります。
\Delta x が十分小さければ、微分の考え方から、
\[A_x(x+\Delta x,y)-A_x(x,y)\approx\frac{\partial A_x}{\partial x}\Delta x\]
なので、x 方向の正味流出は、
\[\frac{\partial A_x}{\partial x}\Delta x\Delta y\]
と書けます。
y方向も同じように考える
上下の辺について同じことをすると、y 方向の正味流出は、
\[\frac{\partial A_y}{\partial y}\Delta x\Delta y\]
です。
全部足して、面積で割る
長方形全体からの正味流出は、
\[\left(\frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}\right)\Delta x\Delta y\]
となります。
ここで \Delta x\Delta y は長方形の面積です。面積あたりの正味流出を求めるために割れば、
\[\frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}\]
が残ります。
これが2次元での発散です。
ここまで来ると、なぜ「x成分をxで微分」「y成分をyで微分」して足すのかが見えてきます。それぞれが、対応する向きの2つの境界を通る正味の外向き流出を測っているからです。
3次元のdivの式を導く
3次元でも考え方は変わりません。今度は点 (x,y,z) の周囲に、辺の長さが \Delta x、\Delta y、\Delta z の小さな直方体を置きます。
ベクトル場を、
\[\mathbf{A}=(A_x,A_y,A_z)\]
とします。
x 方向には左右2面、y 方向には前後2面、z 方向には上下2面があります。それぞれについて「出る量−入る量」を計算します。
x方向の正味流出
x に垂直な面の面積は \Delta y\Delta z です。左右の面での A_x の差は、一次近似で、
\[\frac{\partial A_x}{\partial x}\Delta x\]
なので、x方向の正味流出は、
\[\frac{\partial A_x}{\partial x}\Delta x\Delta y\Delta z\]
です。
y方向とz方向も足す
同様に、
\[\frac{\partial A_y}{\partial y}\Delta x\Delta y\Delta z\]
\[\frac{\partial A_z}{\partial z}\Delta x\Delta y\Delta z\]
が得られます。
3方向をすべて足すと、
\[\left(\frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}+\frac{\partial A_z}{\partial z}\right)\Delta V\]
です。ただし、
\[\Delta V=\Delta x\Delta y\Delta z\]
としました。
最後に体積 \Delta V で割ると、
\[\boxed{\mathrm{div}\,\mathbf{A}=\frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}+\frac{\partial A_z}{\partial z}}\]
となります。
つまり div の定義式は、突然決められた不思議な公式ではありません。微小な箱の6面を通る正味の外向き流出を、箱の体積で割って極限を取ったものだと考えれば、式の形にはきちんと理由があります。

なぜdivの答えはベクトルではなくスカラーなのか
ここは初学者が引っかかりやすいところです。
入力はベクトル場なのに、div を計算すると、
\[\frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}+\frac{\partial A_z}{\partial z}\]
という1つの数になります。
これは div が「どちら向きに流れているか」を答える演算ではないからです。div が知りたいのは、その点が正味の源なのか、吸い込みなのか、どちらでもないのかです。
たとえば、ある場所から東西南北上下へ均等に水が湧き出しているとします。「湧き出しの強さ」を表すのに、東向きや北向きといった方向を1つ選ぶ必要はありません。必要なのは、全方向を合計した正味の量です。
そのため、div の結果は方向を持たないスカラーになります。
ナブラ∇を使うとdivは∇・Aと書ける
ベクトル解析では、
\[\nabla=\left(\frac{\partial}{\partial x},\frac{\partial}{\partial y},\frac{\partial}{\partial z}\right)\]
という記号を使います。これは「ナブラ」と読みます。
普通のベクトル、
\[\mathbf{a}=(a_x,a_y,a_z)\]
と、
\[\mathbf{b}=(b_x,b_y,b_z)\]
の内積は、
\[\mathbf{a}\cdot\mathbf{b}=a_xb_x+a_yb_y+a_zb_z\]
でした。
同じ形で ∇ と A の内積を書くと、
\[\nabla\cdot\mathbf{A}=\frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}+\frac{\partial A_z}{\partial z}\]
となり、これは div A と同じです。
したがって、
\[\boxed{\mathrm{div}\,\mathbf{A}=\nabla\cdot\mathbf{A}}\]
です。
ただし、∇は普通の数値ベクトルそのものというより「後ろの関数を偏微分する演算子を成分として並べたもの」です。内積の形を利用すると div の式を非常にコンパクトに書ける、と理解しておくとよいでしょう。
EMANの物理数学でも、∇・A が正ならその地点での「湧き出し」として理解できること、また ∇・A がスカラー場になることが説明されています。
関連リンク:EMANの物理数学「ナブラの応用」
具体例1:A=(x,y,z) のdivを計算する
最も分かりやすい例から計算してみます。
\[\mathbf{A}=(x,y,z)\]
なので、
\[A_x=x,\quad A_y=y,\quad A_z=z\]
です。
発散を計算すると、
\[\mathrm{div}\,\mathbf{A}=\frac{\partial x}{\partial x}+\frac{\partial y}{\partial y}+\frac{\partial z}{\partial z}=1+1+1=3\]
となります。
どの場所でも div=3 です。このベクトル場は原点から放射状に外へ向かい、位置が原点から遠くなるほど矢印も大きくなります。
ただし「原点だけが湧き出し源」と考えるのは、この例では正確ではありません。div は空間のどの点でも 3 なので、数学的には空間の各点に一定の正の発散があるベクトル場です。
矢印の見た目と div の値を区別することが重要です。
具体例2:一定のベクトル場は流れていてもdiv=0
次は、
\[\mathbf{A}=(3,0,0)\]
を考えます。
空間のどこでも右向きに大きさ3のベクトルがある、一様な流れです。
発散は、
\[\mathrm{div}\,\mathbf{A}=\frac{\partial 3}{\partial x}+\frac{\partial 0}{\partial y}+\frac{\partial 0}{\partial z}=0\]
です。
ここから、div=0 は「ベクトル場が存在しない」という意味ではないことが分かります。
小さな箱を置けば、左面から水が入り、右面から同じ量が出ます。箱の内部で増えも減りもしないので、正味の湧き出しは0です。

具体例3:A=(-x,-y,-z) は吸い込みになる
今度は、
\[\mathbf{A}=(-x,-y,-z)\]
です。
計算すると、
\[\mathrm{div}\,\mathbf{A}=-1-1-1=-3\]
となります。
ベクトルは原点方向へ向かっています。小さな領域から見れば、外へ出ていくよりも中へ入ってくる方が多いので、発散は負です。
正の div を「源(source)」と呼ぶなら、負の div は「吸い込み(sink)」と考えられます。
具体例4:見た目が変化していてもdiv=0になる例
もう少し面白い例を見てみましょう。
\[\mathbf{A}=(y,-x,0)\]
です。
発散を計算すると、
\[\mathrm{div}\,\mathbf{A}=\frac{\partial y}{\partial x}+\frac{\partial(-x)}{\partial y}+\frac{\partial 0}{\partial z}=0+0+0=0\]
となります。
このベクトル場は xy 平面で原点のまわりを回るような形になります。場所によって矢印の向きは大きく変わりますが、正味の湧き出しはありません。
この例は、div が「ベクトル場の変化すべて」を測っているわけではないことを示しています。回転するような変化は、別の演算である rot(curl、回転)が担当します。
つまりベクトル解析では、ベクトル場の変化を1種類の数字だけで表そうとしているわけではありません。grad、div、rot など、異なる側面を取り出す演算を使い分けています。

「矢印が外向きならdiv>0」とは限らない
ここはかなり重要な注意点です。
図を使って div を説明すると、「原点から外向きの矢印なら div は正」と覚えてしまいがちです。しかし、これは一般には正しくありません。
たとえば3次元で、原点以外において、
\[\mathbf{F}=\frac{\mathbf{r}}{r^3}\]
という逆二乗型の放射状ベクトル場を考えます。ここで、
\[\mathbf{r}=(x,y,z),\quad r=\sqrt{x^2+y^2+z^2}\]
です。
見た目は原点から外へ向かう場ですが、原点を除く場所では div F=0 になります。
なぜでしょうか。
半径 r の球面の面積は 4\pi r^2 で増えていきます。一方、ベクトル場の大きさは 1/r^2 で小さくなります。そのため、球面全体を貫く総量は、
\[\frac{1}{r^2}\times4\pi r^2=4\pi\]
となり、半径によらず一定です。
原点と原点以外を区別する必要があり、このような特異点を含む場に発散定理を適用するときには注意が必要です。UBCのベクトル解析教材でも、発散定理では領域内でベクトル場が十分滑らかであることが条件で、原点で定義されない逆二乗場は注意例として挙げられています。
関連リンク:UBC CLP Calculus「The Divergence Theorem」
発散の単位はどう考える?
式から単位も確認しておきましょう。
もしベクトル場 A の単位が [A]、位置 x,y,z の単位が m なら、
\[\frac{\partial A_x}{\partial x}\]
の単位は、
\[[A]/\mathrm{m}\]
です。
したがって div A も、
\[[\mathrm{div}\,A]=[A]/\mathrm{m}\]
となります。
たとえば速度場 v の単位が m/s なら、
\[\nabla\cdot\mathbf{v}\]
の単位は 1/s です。
これは「単位時間あたりに、局所的な体積がどれくらい膨張・収縮する傾向があるか」という解釈ともつながります。
数式を扱うとき、単位を確認する習慣をつけておくと、式の意味を理解しやすくなるだけでなく、計算ミスにも気づきやすくなります。
divと流体:非圧縮性流体ではなぜdiv v=0なのか
div の直感をつかむ題材として、流体は非常に分かりやすい例です。
速度場を v とします。ある小さな箱へ入ってくる流体より、外へ出ていく流体の方が多ければ、箱の内部の流体量は減るはずです。逆なら増えます。
密度が一定で、流体が局所的に圧縮も膨張もしない理想化された条件では、小領域へ入る体積流量と出る体積流量が釣り合う必要があります。その条件が、
\[\nabla\cdot\mathbf{v}=0\]
です。
ただし、一般の流体では密度が変化する場合があるため、「流体なら必ず div v=0」と覚えてはいけません。密度 \rho と速度 v を使った質量保存は、一般には連続の式、
\[\frac{\partial\rho}{\partial t}+\nabla\cdot(\rho\mathbf{v})=0\]
で表されます。
密度が一定なら、この式から div v=0 が得られます。
このように div は単なる数学の記号ではなく、「小さな領域に何かが溜まっているのか、出ていっているのか」という保存則と深く関係しています。
ガウスの発散定理:局所的なdivを全部足すと表面からの流出になる
div の意味が分かると、ガウスの発散定理はかなり自然に見えてきます。
発散定理は、
\[\boxed{\iiint_V(\nabla\cdot\mathbf{A})\,dV=\iint_{\partial V}\mathbf{A}\cdot\mathbf{n}\,dS}\]
と表されます。
左辺は、体積 V の内部にある div を体積全体で足し合わせたものです。
右辺は、V を囲む閉曲面 \partial V を通って外へ出るベクトル場の総量、つまりフラックス(流束)です。n は外向き単位法線ベクトルです。
言葉で書けば、
領域内部にある「湧き出し」の総量 = 領域の表面から外へ出ていく総量
という関係です。
この式は、div の定義を大きな領域まで拡張したものと考えると理解しやすくなります。

なぜ内部の流れが消えて表面だけ残るのか
大きな箱を、たくさんの小さな箱に分割したと考えてみましょう。
ある小箱の右面から出た流れは、その隣の小箱から見れば左面から入ってきた流れです。
小箱ごとの「外向き流出」を全部足すと、内部で共有されている面の寄与は、片方ではプラス、もう片方ではマイナスになって打ち消し合います。
最後まで打ち消されずに残るのは、大きな領域の一番外側にある表面だけです。
この「内部境界が相殺され、外側の境界だけが残る」という構造は、発散定理を理解するうえで非常に重要です。
Harvardの多変数解析資料でも、発散定理は体積内の div の積分と境界面を通るフラックスを結ぶ定理として示されています。
関連リンク:Harvard Math 21a「Divergence Theorem」
簡単な例で発散定理を確かめる
ベクトル場、
\[\mathbf{A}=(x,y,z)\]
を、半径 R の球で考えてみます。
先ほど計算したように、
\[\nabla\cdot\mathbf{A}=3\]
です。
球の体積は、
\[V=\frac{4}{3}\pi R^3\]
なので、発散の体積積分は、
\[\iiint_V3\,dV=3\times\frac{4}{3}\pi R^3=4\pi R^3\]
です。
一方、球面上では A は半径方向を向き、その大きさは R です。外向き単位法線 n も半径方向なので、
\[\mathbf{A}\cdot\mathbf{n}=R\]
です。
球の表面積は 4\pi R^2 なので、表面を通るフラックスは、
\[\iint_{\partial V}\mathbf{A}\cdot\mathbf{n}\,dS=R\times4\pi R^2=4\pi R^3\]
となります。
確かに、
\[\iiint_V(\nabla\cdot\mathbf{A})dV=\iint_{\partial V}\mathbf{A}\cdot\mathbf{n}dS\]
が成り立っています。
この計算では、左辺は「内部の湧き出しを全部足す」、右辺は「球面から実際に外へ出る量を数える」という、まったく違う計算をしています。それでも答えが一致するのが発散定理です。
電磁気学でdivが重要になる理由
大学で div を学ぶ大きな理由の1つが電磁気学です。
マクスウェル方程式のうち、電気に関するガウスの法則は、微分形で、
\[\boxed{\nabla\cdot\mathbf{D}=\rho}\]
と書けます。
D は電束密度 [C/m²]、\rho は体積電荷密度 [C/m³] です。
この式を div の意味に戻して読むと、
電束密度 D の局所的な湧き出し量は、その場所にある電荷密度 \rho で決まる。
という意味になります。
正電荷がある場所では電気的な場が外へ湧き出すように見え、負電荷がある場所では吸い込まれるように見えます。高校物理で見た電気力線のイメージが、div を使うと局所的な微分方程式として表現できるわけです。
真空中で D=\varepsilon_0E とすれば、
\[\nabla\cdot\mathbf{E}=\frac{\rho}{\varepsilon_0}\]
となります。
HyperPhysicsでも、電場の発散は点電荷の密度と結びつき、磁場について発散が0であることは点状の磁気的な源が存在しないことに対応すると説明されています。

積分形のガウスの法則とdivはどうつながる?
高校物理や大学の電磁気学では、ガウスの法則を、
\[\oint_S\mathbf{D}\cdot d\mathbf{S}=Q_{\mathrm{in}}\]
のような積分形で見ることもあります。
左辺は閉曲面 S から外へ出る電束の総量です。右辺はその面の内部にある総電荷です。
一方、微分形は、
\[\nabla\cdot\mathbf{D}=\rho\]
です。
発散定理を使うと、
\[\oint_S\mathbf{D}\cdot d\mathbf{S}=\iiint_V(\nabla\cdot\mathbf{D})dV\]
です。ここに ∇・D=\rho を入れると、
\[\oint_S\mathbf{D}\cdot d\mathbf{S}=\iiint_V\rho\,dV\]
となります。
そして、体積電荷密度を体積で積分すれば内部の総電荷 Q_in なので、
\[\oint_S\mathbf{D}\cdot d\mathbf{S}=Q_{\mathrm{in}}\]
が得られます。
つまり、積分形と微分形は別々の法則ではありません。十分な滑らかさなどの条件のもとで、発散定理によって結びついています。
EMANの電磁気学には、微小な箱からの湧き出しを考えて div の意味とガウスの定理をつなぐ解説があります。今回の記事で小箱の議論が分かったあとに読むと、電磁気学との関係を追いやすくなると思います。
関連リンク:EMANの電磁気学「ガウスの定理の証明」
磁場のdivが0とはどういう意味?
マクスウェル方程式には、
\[\nabla\cdot\mathbf{B}=0\]
という式も登場します。
B は磁束密度です。
div の意味をそのまま当てはめれば、これは磁束密度には局所的な正味の湧き出し源・吸い込み源がないことを表します。
棒磁石にはN極とS極があるので、「N極から磁力線が出てS極へ入るなら、N極でdiv>0、S極でdiv<0では?」と思うかもしれません。
しかし磁束線は磁石の内部も含めて閉じたループとしてつながります。電荷のような単独の磁気単極子が通常のマクスウェル方程式に現れないことが、∇・B=0 に対応しています。
ここでも「見た目として線が出ている場所」と「数学的な局所的湧き出し」は区別する必要があります。
grad・div・rotの違いを整理する
ベクトル解析では grad、div、rot が続けて登場するため、何を入力して何が出てくるのか混乱しやすいです。
| 演算 | 入力 | 出力 | ざっくりした意味 |
|---|---|---|---|
| grad f = ∇f | スカラー場 | ベクトル場 | 最も急に増える方向と変化率 |
| div A = ∇・A | ベクトル場 | スカラー場 | 局所的な湧き出し・吸い込み |
| rot A = ∇×A | ベクトル場 | ベクトル場 | 局所的な回転・渦の強さと軸 |
特に div と rot は、どちらもベクトル場の「変化」を調べますが、見ているものが違います。
div は、微小領域の境界を通って正味で外へ出る量を見ます。
rot は、微小な羽根車を置いたときに回ろうとする性質を見る、とイメージすると分かりやすいです。
この違いを理解しておくと、マクスウェル方程式に div と rot が両方現れる理由も見えやすくなります。
よくある疑問1:なぜ∂A_x/∂yはdivに入らないの?
定義を見ていると、
\[\frac{\partial A_x}{\partial y}\]
のような項もベクトル場の変化を表しているのに、なぜ div には入らないのか疑問に思うかもしれません。
理由は、div が境界面を垂直に貫く正味流出を測っているからです。
x 方向に垂直な左右の面を貫くのは A_x です。その左右の面は x を変えた位置にあるため、左右差を作るのは ∂A_x/∂x です。
一方、∂A_x/∂y は「y方向へ移動したとき、x方向成分がどう変わるか」を表します。これはせん断や回転など別の性質に関係しますが、x方向の対向面からの正味流出を直接表す項ではありません。
「成分の向き」と「その成分を比較する空間方向」が一致している項を足している、と考えると整理しやすいでしょう。
よくある疑問2:div=0なら何も起きていない?
いいえ。div=0 が意味するのは、局所的な正味の湧き出しが0ということだけです。
一様な流れ A=(3,0,0) でも div=0 でした。また、回転する A=(y,-x,0) でも div=0 でした。
したがって、div=0 の場には、
- 強い流れが存在する場合
- 向きが場所によって変化する場合
- 渦を持つ場合
もあります。
div はベクトル場の情報を1つのスカラーへ圧縮して取り出す演算です。そのため、div だけから元のベクトル場のすべてを知ることはできません。
よくある疑問3:「発散」という日本語が分かりにくい
日本語の「発散」は、数列や積分が無限大へ向かう「収束・発散」と同じ言葉なので、混乱しやすいところです。
ベクトル解析の divergence は、数列の発散とは別の概念です。
ベクトル解析では、「湧き出し」「源の強さ」のようにイメージした方が理解しやすい場合があります。EMANでも div の直感を「湧き出し」として説明しています。
ただし、実際の教科書や講義では「発散」「divergence」「div」「∇・A」が使われるので、これらが同じ演算を指すことは覚えておきましょう。
よくある疑問4:発散は座標系が変わっても同じ式?
直交座標 (x,y,z) では、
\[\nabla\cdot\mathbf{A}=\frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}+\frac{\partial A_z}{\partial z}\]
という非常にきれいな形になります。
しかし円筒座標や球座標では、座標線の間隔や面積・体積の広がり方が場所によって変わるため、成分を単純に偏微分して足すだけではありません。
たとえば球対称で、
\[\mathbf{A}=A_r(r)\mathbf{e}_r\]
のように半径方向成分だけを持つ場合、発散は、
\[\nabla\cdot\mathbf{A}=\frac{1}{r^2}\frac{d}{dr}\left(r^2A_r\right)\]
となります。
ここに r² が出てくるのは、半径が大きくなるほど球面積が r² に比例して広がることと関係しています。
大学1年生の段階では、まず直交座標で div の意味を理解することをおすすめします。その後、電磁気学で球対称・円筒対称の問題を扱うときに、各座標系の公式へ進むと理解しやすくなります。
Pythonでベクトル場を可視化するとdivが見えやすい
div は式だけでも計算できますが、ベクトル場を矢印で描くと理解がかなり深まります。
たとえば2次元で、
\[\mathbf{A}=(x,y)\]
\[\mathbf{B}=(-x,-y)\]
\[\mathbf{C}=(y,-x)\]
の3つを比べてみます。
A は div=2、B は div=-2、C は div=0 です。
Pythonの NumPy と Matplotlib を使うなら、次のようなコードで矢印を描けます。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
x = np.linspace(-2, 2, 15)
y = np.linspace(-2, 2, 15)
X, Y = np.meshgrid(x, y)
U = X
V = Y
plt.figure(figsize=(6, 6))
plt.quiver(X, Y, U, V)
plt.axhline(0, linewidth=0.5)
plt.axvline(0, linewidth=0.5)
plt.xlabel("x")
plt.ylabel("y")
plt.axis("equal")
plt.show()
U=X、V=Y の部分を U=-X、V=-Y に変えれば吸い込み場、U=Y、V=-X に変えれば回転場を描けます。
ここで重要なのはコードを書くこと自体ではありません。同じ「場所によって変わる矢印」でも、湧き出し・吸い込み・回転では div の値がまったく違うことを目で確認することです。

divを計算するときの手順
最後に、直交座標で div を計算するときの手順を整理します。
- ベクトル場を A=(A_x,A_y,A_z) の成分に分ける。
- A_x を x で偏微分する。
- A_y を y で偏微分する。
- A_z を z で偏微分する。
- 3つの結果を足す。
- 得られたスカラーの符号と大きさを「正味の湧き出し」として解釈する。
たとえば、
\[\mathbf{A}=(x^2,3xy,z^2)\]
なら、
\[\frac{\partial A_x}{\partial x}=2x\]
\[\frac{\partial A_y}{\partial y}=3x\]
\[\frac{\partial A_z}{\partial z}=2z\]
なので、
\[\boxed{\nabla\cdot\mathbf{A}=5x+2z}\]
です。
この場合、div は場所によって変わります。5x+2z>0 の領域では正味の湧き出し、5x+2z<0 の領域では正味の吸い込み、5x+2z=0 の面では局所的な正味流出が0です。
計算が終わったら数式だけで止めず、「この答えは空間のどこで正・負・0になるのか」まで考えてみると、ベクトル解析が単なる公式暗記から抜け出せます。
発散定理を使うと何がうれしいのか
発散定理は、単に美しい関係式というだけではありません。計算方法を切り替える道具としても強力です。
閉曲面を直接面積分するのが大変でも、div が簡単なら体積積分へ変換できます。反対に、体積内部の div を積分するより表面フラックスを数えた方が簡単な場合もあります。
つまり、
\[\text{閉曲面を通るフラックス}\longleftrightarrow\text{内部の発散の体積積分}\]
を状況に応じて行き来できます。
さらに物理では、積分形で表された「領域全体の保存則」と、微分形で表された「各点で成り立つ局所法則」を結びつける役割を果たします。
電磁気学で積分形のガウスの法則から ∇・D=ρ へ進むときに div が必要になるのは、このためです。
大学1年生がdivを理解するときに意識したい順番
個人的には、div を最初から ∇・A の記号操作として覚えるより、次の順番で理解する方が混乱しにくいと思います。
- ベクトル場を「空間にたくさん矢印があるもの」と捉える。
- 小さな箱を置く。
- 各面から「出る量−入る量」を考える。
- 箱の体積で割る。
- 箱を限りなく小さくする。
- その結果が ∂A_x/∂x+∂A_y/∂y+∂A_z/∂z になることを確認する。
- 最後に ∇・A という短い記法を覚える。
- 発散定理で局所量と全体量をつなぐ。
- 電磁気学や流体力学で実際の意味を確認する。
この順番なら、「なぜその式なのか」が先に分かるので、公式も記憶に残りやすくなります。
まとめ:divは「微小な箱からの正味流出」を測っている
この記事では、ベクトルの発散 div を、公式の暗記ではなく小さな箱への流入・流出から考えました。
最も大切なのは、
\[\boxed{\mathrm{div}\,\mathbf{A}=\nabla\cdot\mathbf{A}=\frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}+\frac{\partial A_z}{\partial z}}\]
という式を見たときに、「ベクトル場の局所的な湧き出しを測っている」とイメージできることです。
- div>0:正味の湧き出しがある。
- div<0:正味の吸い込みがある。
- div=0:入る量と出る量が局所的に釣り合っている。
- divはベクトル場を入力し、スカラー場を出力する。
- 流れが存在していてもdiv=0になることはある。
- 渦があってもdiv=0になることはある。
- 発散定理は「内部のdivの総量」と「表面からの流出」を結ぶ。
- 電磁気学では ∇・D=ρ の形で、電荷と電束密度の湧き出しが結びつく。
div の式を忘れたとしても、「微小な箱を置き、左右・前後・上下で出る量と入る量の差を考える」ところまで戻れば、なぜ3つの偏微分を足すのかを自分で組み立て直せます。
ベクトル解析は grad、div、rot、線積分、面積分、ガウスの発散定理、ストークスの定理と続いていきます。一つひとつの公式を独立に暗記するより、「局所的な微分」と「領域全体の積分」がどうつながっているかを意識すると、電磁気学で使う段階になってから理解しやすくなります。
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