今回は分布定数線路 その1の続きを書いていきます。
前回の記事はこちら
分布定数線路 のF行列
分布定数線路は、下図のような二端子対回路であり、そのインピーダンスは行列形式で記載可能です。
単一周波数が与えられた条件で、上図のような 分布定数線路 のF行列を求めていきましょう。
なお、今回は無損失であることを仮定します。
まずは、$x=0$の位置における電圧$V_{0}$と電流$I_{0}$から求めていきます。
分布定数線路の一般解をから、
\begin{align}
V_{0}&=V_{i}+V_{r} \tag{1}\\
I_{0}&=\frac{V_{i}}{Z_{0}}-\frac{V_{r}}{Z_{0}} \tag{2}
\end{align}
同様に、$x=l$の位置における電圧$V_{l}$と電流$I_{l}$を求めていきます。
なお、無損失を仮定しているため、$\gamma=j\beta$としています。
\begin{align}
V_{l}&=V_{i}e^{j\beta l}+V_{r}e^{j\beta l} \tag{3}\\
I_{l}&=\frac{V_{i}}{Z_{0}}e^{j\beta l}-\frac{V_{r}}{Z_{0}}e^{j\beta l} \tag{4}
\end{align}
ここで、オイラーの公式から
$e^{j\beta l}=\cos{\beta l}+j\sin{\beta l}$となるので、式(3), 式(4)はそれぞれ
\begin{align}
V_{l}&=(V_{I}+V_{r})\cos{\beta l}-j(V_{I}-V_{r})\sin{\beta l} \tag{5}\\
I_{l}&=(\frac{V_{i}}{Z_{0}}+\frac{V_{r}}{Z_{0}})\cos{\beta l}-j(\frac{V_{i}}{Z_{0}}-\frac{V_{r}}{Z_{0}})\sin{\beta l} \tag{6}
\end{align}
式(1),(2),(5),(6)を行列でまとめると、下式のようになります。
\begin{align}
\begin{bmatrix}
V_{l}\\
I_{l}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
\cos{\beta l} && -jZ_{0}\sin{\beta l}\\
-j\frac{1}{Z_{0}}\sin{\beta l}&&\cos{\beta l}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
V_{0}\\
I_{0}
\end{bmatrix}
\tag{7}
\end{align}
さて、式(7)の2行2列の行列の逆行列を左から掛け合わせることで、
\begin{align}
\begin{bmatrix}
V_{0}\\
I_{0}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
\cos{\beta l} && jZ_{0}\sin{\beta l}\\
j\frac{1}{Z_{0}}\sin{\beta l}&&\cos{\beta l}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
V_{l}\\
I_{l}
\end{bmatrix}
\tag{8}
\end{align}
これで、無損失状態での縦続接続可能なF行列を求めることができました。
分布定数線路 の終端に負荷があることを考える
実際の線路は無限に続くことなどなく、終端が必ずあります。ここでは、終端にインピーダンス$Z_{L}$が接続された下図のような状態を考えてみます。
式(8)より、
\begin{align}
V_{0}&=V_{l}\cos{\beta l}+jZ_{0}I_{l}\sin{\beta l} \tag{9}\\
I_{0}&=jV_{l}\frac{1}{Z_{0}}\sin{\beta l}+I_{l}\cos{\beta l} \tag{10}
\end{align}
入力インピーダンス$Z_{in}$は、
\begin{align}
Z_{in}=\frac{V_{0}}{I_{0}}=Z_{0}\frac{V_{l}\cos{\beta l}+jZ_{0}I_{l}\sin{\beta l}}{I_{l}Z_{0}\cos{\beta l}+jV_{l}\sin{\beta l}} \tag{11}
\end{align}
ここで、$\frac{V_{l}}{I_{l}}=Z_{L}$であるので、式(11)に代入して、
\begin{align}
Z_{in}=Z_{0}\frac{Z_{l}\cos{\beta l}+jZ_{0}\sin{\beta l}}{Z_{0}\cos{\beta l}+jZ_{l}\sin{\beta l}} \tag{12}
\end{align}
式(12)の分母分子をそれぞれ$\cos_{\beta l}$で割ると、
\begin{align}
Z_{in}=Z_{0}\frac{Z_{l}+jZ_{0}\tan{\beta l}}{Z_{0}+jZ_{l}\tan{\beta l}} \tag{13}
\end{align}
式(13)が、伝送線路に負荷インピーダンスを終端した時の入力インピーダンスを一般化した式になります。
ここで、負荷が0(ショート)と無限大(オープン)について考えていきましょう。
集中定数回路であれば、負荷が0ならインピーダンスはどこからみても0でしょうが、分布定数線路の世界では線路長により0にならないことがあります。
負荷が0の時、式(13)に$Z_{l}=0$を代入することになります。すると、入力インピーダンスは
\begin{align}
Z_{in}=jZ_{0}\tan{\beta l} \tag{14}
\end{align}
式(14)に関して、$l$を$0~0.3 \lambda$に変化させた際のインピーダンス(虚部のみ)をプロットした結果を下図に示します。
下図を見ると、$\frac{\lambda}{4}$で入力インピーダンスが無限大になり$\frac{\lambda}{2}$で入力インピーダンスがゼロになります。
次に、負荷が無限大、すなわちオープンの時を考えてみましょう。
式(13)に$Z_{L}=\infty$を代入すると、入力インピーダンスは
\begin{align}
Z_{in}=\frac{Z_{0}}{j\tan{\beta l}} \tag{15}
\end{align}
式(15)について、$l$を$0~\lambda$まで変化させた際の入力インピーダンスをプロットしたものを下図に示します。$\frac{\lambda}{4}$で入力インピーダンスが0になり$\frac{\lambda}{2}$で入力インピーダンスが$\infty$になります。
ここで大事なことは、終点までの距離に応じてインピーダンスが変化するという点です。
上図より、$l$を$0~\frac{\lambda}{4}$の時、負荷がショートなら誘導性、負荷がオープンであれば容量性のインピーダンスを持ちます。
上記の文面を見ると、インダクタやコンデンサによるマッチングと似ていますね。
実は、インピーダンスマッチングは受動部品だけでなく、パターンによっても形成可能なのです!
分布定数線路の伝送線路設計時に頻出する内容ですので、記憶しておきましょう。
分布定数線路の一般的な方程式さえ抑えれていればオープン時、ショート時の特性を導けますので、できる限り無駄なものは覚えないように工夫していきましょう!
まとめ
今回は分布定数線路について、F行列を求め、ある負荷があり、ある距離$l$だけ離れた位置からみた入力インピーダンスを求めました。また、負荷がオープン時・ショート時の入力インピーダンスを求めました。
これらの入力インピーダンスは、基準とする位置からの距離に応じて変化することを学びました。分布定数線路の設計において、この考え方が非常に大事ですので、一般式から導出できるようにしましょう!
高周波のインピーダンス変換の基礎を学びたい人
分布定数線路をより深く学びたい人
中間考査、期末考査の対策をしたい人