F行列 を用いた複雑な回路解析

今回は F行列 を用いた前回に引き続き、回路解析になります。
F行列についての基本的な事項は、前回の記事を参考にしてください。

F行列をマスターすると、任意の電気回路について、注目したい節点の複素電圧、電流を算出できるので非常に有用です。
ただし、行列計算が必須となるので、手計算で実施するのは中々骨が折れますのでご注意ください。
(私は基本pythonかmatlabで計算しています)

今回検討する内容は、複数電源を持つ回路の解析です。以下の回路で$V_{a}$を算出します。

$V_{a}$を求めるためには、F行列を使用するわけですが、解くにあたって「テブナンの定理」と「重ね合わせの理」を理解する必要があります。なので、まずはこの二つの説明をしていきます。

テブナンの定理

テブナンの定理とは、等価電圧源の定理とも呼ばれており、直流、交流回路において、どのような複数電源を有する複雑な回路でも一つの電圧源と、合成インピーダンス$Z_{0}$で表現ができるものです。下図に示した電源周辺の等価回路は以下のように表せます。

それではどのように等価電圧源と合成インピーダンスを算出するか説明します。2端子対回路において、右側がオープン状態の以下の回路を想定します。(開放端電圧は$V_{1}$)

まずは電圧源・電流源を取り除きます。電圧源であればショート、電流源であればオープンとします。(今回はショート)その時、観測したい電圧の点から見た回路のインピーダンスが算出したい合成インピーダンス$Z_{0}$です。ここで、2端子対回路であれば簡単に$Z_{0}$を算出できます。

まずは2端子対回路モデルを考えます。その際、電流の方向を通常とは逆方向としてください。

次に右図に対して行列式を算出すると、

$$\begin{bmatrix}
V_{1}\\
-I_{1}\\
\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}
A&B\\
C&D\\
\end{bmatrix}\begin{bmatrix}
V_{2}\\
-I_{2}\\
\end{bmatrix}$$

両辺に左から2×2行列の逆行列をかけます。

$$\begin{bmatrix}
V_{2}\\
-I_{2}\\
\end{bmatrix}=\frac{1}{AD-BC}\begin{bmatrix}
D&-B\\
-C&A\\
\end{bmatrix}\begin{bmatrix}
A&B\\
C&D\\
\end{bmatrix}\begin{bmatrix}
V_{2}\\
-I_{2}\\
\end{bmatrix}$$

ここで、相反回路であることを利用すると、$AD-BC=1$となります。
相反回路についてはこちらの記事を参考にしてください。

式を整理すると、

$$\begin{bmatrix}
V_{2}\\
I_{2}\\
\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}
D&B\\
C&A\\
\end{bmatrix}\begin{bmatrix}
V_{1}\\
I_{1}\\
\end{bmatrix}$$

となります。出力側(今回でいえば電源があった方)が短絡しているため、短絡時の入力インピーダンスを求めることで合成インピーダンスが算出できます。

$$\begin{cases}
{V_{2}=D\cdot V_{1}+B\cdot I_{1}}\\
{I_{2}=C\cdot V_{1}+A\cdot I_{1}}
\end{cases}$$

短絡していることから$V_{1}=0$であり

$$Z_{0}=\frac{V_{2}}{I_{2}}=\frac{B}{A}$$

となり、合成インピーダンスが算出できます。

重ね合わせの理

次に、重ね合わせの理について説明します。
N個の電圧源及び電流源がある回路があったとします。

N個のうち一個の電圧源または電流源はそのまま回路に取り残し、その他N-1個の電源は、

・「電圧源ならショート」
「電流源ならオープン

とし、求めたい節の電圧や素子に流れる電流を算出します。それをN通り計算し、全て足し合わせることにより、N個の電圧源及び電流源がある回路について、求めたい節点電圧や素子に流れる電流を算出できます。これが重ね合わせの理の大まかな説明です。

それでは今回求めたい回路について重ね合わせの理を適用します。
下図は二つの電圧源がある回路に対して重ね合わせの理を適用した図を示しています。
まずは、右側の電圧源を短絡したものを考え、節点電圧$V_{a}$を算出します。
その際、節点より左側は、電源を含む回路になっているため、テブナンの定理を用いて等価電圧源と内部インピーダンスを求めることができます。節点より右側は、F行列により単純化でき、出力短絡時の入力インピーダンスにより回路を単純化でき、これらにより節点電圧$V_{a}$を算出できます。

次に、左側のでんあつげんを短絡したものを考え、同様の考えにより節点電圧$V_{a}$を算出します。

重ね合わせの理より、求めたい節点電圧$V_{a}$は、上記で求めた二つの節点電圧の和から求まります。

行列式を用いた回路解析

それでは本題に移ります。以下の回路について節点電圧$V_{a}$を算出していきます。
前回と同様、Python のsympyを用いて解析していきました。

まずはモジュールをインポートし、変数を設定します。

import sympy as sym
sym.init_printing()
import math
Pi=sym.N(sym.pi,10)


sym.var('R1,R2,C1,C2,L1,L2,ω')

次に、各素子に対してF行列を計算していきます。回路図の左側から順に算出します。

F1=sym.Matrix([[1,R1],[0,1]])
F2=sym.Matrix([[1,0],[1/(sym.I*ω*L1),1]])
F3=sym.Matrix([[1,1/(sym.I*ω*C1)],[0,1]])
F4=sym.Matrix([[1,0],[1/R2,1]])
F5=sym.Matrix([[1,sym.I*ω*L2],[0,1]])
F6=sym.Matrix([[1,0],[sym.I*ω*C2,1]])

次に内部インピーダンス(z_in)をテブナンの定理から求め、F行列から入力インピーダンス(z_load)を算出します。

Z_in1=F_123[1]/F_123[0]
V_01=5/F_123[0]
Z_load1=F_456[1]/F_456[3]
Va1=Z_load1*V_01/(Z_in1+Z_load1)

Z_in2=F_654[1]/F_654[0]
V_02=3/F_654[0]
Z_load2=F_321[1]/F_321[3]
Va2=Z_load2*V_02/(Z_in2+Z_load2)

上記で求めた節点電圧を足し合わせることで$V_{a}$が求まります。
最後に値を代入して、節点電圧$V_{a}$の振幅が算出できます。

Va=Va1+Va2
Va=Va.subs([(R1,1*10**3),(R2,0.6*10**3),(C1,120*10**-12),(C2,200*10**-12),(L1,100*10**-6),(L2,130*10**-6),(ω,Pi*2*10*10**6)])
abs(Va)

結果として、$V_{a}$は1.8644[V]となりました。
今回もこの計算結果が妥当であるか検証していきます。検証はLTSpiceによる解析で実施しました。解析結果は以下の通りで、行列計算による計算結果が妥当であるとわかります。

まとめ

今回は複雑な回路に対してF行列を用いて節点電圧を算出しました。どのような回路であっても、テブナンの定理と重ね合わせの理を用いることで回路解析が可能であることを示すことができました。今後も電気回路のネタを見つけ次第更新していきたい思います。

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shota_py
メーカー勤務のエンジニアです。 自分の趣味である、「電気回路」、「ガジェット」「株式投資」、「Python」に関する記事をつらつらと書いています