分布定数線路について分かりやすく解説

bunny

今回は電磁気のなかで最も重要といっても過言ではない、伝送線路についてできる限りわかりやすく解説したいと思います。

この記事がおすすめな人

高専・大学での「電磁気」テスト対策をしたい方
アンテナ設計の基礎を学びたい方
電磁気について、なんとなくの理解で止まっている方

伝送線路とは???

小学校〜高校までで習った電気の分野は、直流や交流を習ったかと思います。伝送線路の理論は交流に関するものですが、扱う周波数が高いことから、今まで習っていた交流回路とは異なる振る舞いをします。

なぜ、異なる振る舞いをするのか???
それは、「線路のインピーダンスが見えてくるから」です。線路のインピーダンスと言われてもよくわからないかと思います。

例えば50Hzの正弦波を考えてみると、波長は6000kmにも及びます。
コンセントから長さ5mの配線を伸ばし、終端で抵抗を介したとします。その際、回路全体でインピーダンスを見るときは、終端の負荷抵抗を考慮するだけで問題ありません。

次に、1GHzの正弦波を考えてみましょう。波長は30cmになります。こちらについても正弦波を出力する電圧源があり、5mの配線を伸ばし、終端で抵抗を介したとします。そのとき、ある疑問が怒るわけです。

「電圧波形は1周期進んでも負荷に到達してないからオームの法則使えなくないか??」

答えは「No」です。負荷がないように見えても実はインピーダンスが存在しており、そのインピーダンスのもと電流・電圧が決まっていきます。それでは、次の節から微小区間における線路について学んでいきましょう。

分布定数線路と電信方程式

分布定数線路 の具体例は?

分布定数線路の具体例は、同軸線路や平行線路が挙げられます。いずれも二線からなる線路で
、微小区間での等価回路の構成としては、線路の直列インピーダンス、線路間の並列インピーダンスから構成されます。

具体的な回路図は以下の通りです。分布定数線路は、時間と距離により値が変動するため、電圧・電流は二変数関数になります。ある区間$\Delta{x}$について、左端の電圧・電流が$V(x,t)$, $I(x,t)$とすると、右端の電圧・電流が$V(x+\Delta{x},t)$, $I(x+\Delta{x},t)$と表すことができます。また、$\Delta{L}$,$\Delta{R}$,$\Delta{C}$,$\Delta{G}$はそれぞれ単位長さあたりのインダクタンス、抵抗、キャパシタンス、コンダクタンスになります。

微小区間での等価回路

電信方程式を導出

上図から、まずは電圧の方程式を作ります。電圧の方程式を扱う際は、$\Delta{x}$の区間に流れる電流は全て$I(x,y)$であるとみなして計算します。


\begin{align}
V(x+\Delta{x},t)=V(x,t)-R_{0}\Delta{x}I(x,t)-L_{0}\Delta{x}\frac{\partial I(x,t)}{\partial t}\tag{1}
\end{align}

左辺は$\Delta{x}$の周りのマクローリン展開をすると、

\begin{align}
V(x+\Delta{x},t)=V(x,t)+\Delta{x}\frac{\partial V(x,t)}{\partial x}\tag{2}
\end{align}

式(2)を式(1)に代入し、整理すると
\begin{align}
\frac{\partial V(x,t)}{\partial x}=-R_{0}I(x,t)-L_{0}\frac{\partial I(x,t)}{\partial t}\tag{3}
\end{align}

次に、電流の方程式を作ります。その際、上記と同様に、$\Delta{x}$の区間で電圧が$V(x,t)$であるとして計算します。

\begin{align}
I(x+\Delta{x},t)=I(x,t)-G_{0}\Delta{x}V(x,t)-C_{0}\Delta{x}\frac{\partial V(x,t)}{\partial t}\tag{4}
\end{align}

左辺は$\Delta{x}$の周りのマクローリン展開をすると、

\begin{align}
I(x+\Delta{x},t)=I(x,t)+\Delta{x}\frac{\partial I(x,t)}{\partial x}\tag{5}
\end{align}

式(5)を式(4)に代入し、整理すると、
\begin{align}
\frac{\partial I(x,t)}{\partial x}=-G_{0}V(x,t)-C_{0}\frac{\partial V(x,t)}{\partial t}\tag{6}
\end{align}

長いですが、まだ続いていきます。今の式では一つの方程式に電圧と電流の微分系が混在しているため、変数が一つとなるように変形します。

まずは、電圧のみの方程式を導出していきます。
式(3)をxで偏微分します。

\begin{align}
\frac{\partial^2 V(x,t)}{\partial x^2}=-R_{0}\frac{\partial I(x,t)}{\partial x}-L_{0}\frac{\partial}{\partial t}\frac{\partial I(x,t)}{\partial x}\tag{7}
\end{align}

式(7)に式(6)を代入して、整理すると

\begin{align}
\frac{\partial^2 V(x,t)}{\partial x^2}=L _{0}C _{0}\frac{\partial^2 V(x,t)}{\partial t^2}+(R_{0}C_{0}+G_{0}L_{0})\frac{\partial V(x,t)}{\partial t}+R_{0}G_{0}V(x,t)\tag{8}
\end{align}

これで、Vについての方程式が立式できました。
電流Iについても同様に計算して整理すると、

\begin{align}
\frac{\partial^2 I(x,t)}{\partial x^2}=L _{0}C _{0}\frac{\partial^2 I(x,t)}{\partial t^2}+(R_{0}C_{0}+G_{0}L_{0})\frac{\partial I(x,t)}{\partial t}+R_{0}G_{0}I(x,t)\tag{9}
\end{align}

式(8)、式(9)の二階微分方程式が、電信方程式と言われる電磁気におけるとても大事な方程式になります。

電信方程式の解

式(8), 式(9)について、微分方程式を解いてみます。
分布定数線路について仮定すると、ある周波数成分を線路に与えたとき、定常状態となった際には、振幅は違えど周波数は同じであることから、

\begin{align}
V(x,t)=V(x)e^{jwt}\tag{10}\\
I(x,t)=I(x)e^{jwt}\tag{11}
\end{align}

と表すことができます(変数分離)
ここからは、代表して式(8)で進めます。式(8)に式(10)を代入して整理していきます。

\begin{align}
\frac{\partial^2 V(x)}{\partial x^2}&=\{-w^2L_{0}C_{0}+jw(R_{0}C_{0}+G_{0}L_{0})+R_{0}G_{0}\}V(x)\\
&=(R_{0}+jwL_{0})(G_{0}+jwC_{0})V(x)
\end{align}

二階微分方程式なので、$V(x)=e^{\lambda x}$と置くと

\begin{align}
\lambda^2&=(R_{0}+jwL_{0})(G_{0}+jwC_{0})\\
\lambda &=\pm\sqrt{R_{0}+jwL_{0})(G_{0}+jwC_{0})}
\end{align}

ここで、

$$\gamma=\sqrt{R_{0}+jwL_{0})(G_{0}+jwC_{0})}\tag{12}$$とおくと、V(x)は

\begin{align}
V(x)=V_{i}e^{-\gamma x}+V_{r}e^{\gamma x}\tag{13}
\end{align}

ここで、$V_{i}, V_{r}$は初期値によって決まる値になります。
よって、$V(x,t)$は

$$V(x,t)=V_{i}e^{-\gamma x+jwt}+V_{r}e^{\gamma x+jwt}\tag{14}$$

続いて、電流$I(x,t)$を求めていきます。式(3)に式(11)、(14)を代入すると

\begin{align}
I(x)&=\frac{\gamma}{R_{0}+jwL_{0}}V_{i}e^{-\gamma x}-\frac{\gamma}{G_{0}+jwC_{0}}V_{r}e^{\gamma x}\\
&=\sqrt{\frac{G_{0}+jwC_{0}}{R_{0}+jwL_{0}}}V_{i}e^{-\gamma x}-\sqrt{\frac{G_{0}+jwC_{0}}{R_{0}+jwL_{0}}}V_{r}e^{\gamma x}\\
&=\frac{Vi}{Z}e^{-\gamma x}-\frac{Vr}{Z}e^{\gamma x}\\
&=I_{i}e^{-\gamma x}-I_{r}e^{\gamma x} \tag{15}
\end{align}

したがって、
$$I(x,t)=I_{i}e^{-\gamma x+jwt}+I_{r}e^{\gamma x+jwt}\tag{16}$$

これにて電信方程式の一般解を導出完了です!

伝送線路が無限の時を考えてみる

伝送線路が無限の長さである時を考えてみましょう。
伝送線路上のある点で正弦波の入力があったとすると、伝送線路上にその正弦波が伝搬すると考えられます。式(14), (16)の右辺第二項は、x→∞の時、∞に発散してしまいます。発散を防ぐために$V_{r}=0$, ${I_{r}=0$となります。
また、$\gamma$は式(12)より、一般的には複素数となり、
$$\gamma=\alpha+j\beta \tag{17}$$
と表すことができます。

式(17)を式(14), (16)に代入すると、
\begin{align}
V(x,t)=V_{i}e^{-\alpha x}e^{j(wt-\beta x)}\\
I(x,t)=I_{i}e^{-\alpha x}e^{j(wt-\beta x)}
\end{align}

上式の$V(x,t)$に着目して、変数に適当な値を代入し、$t=0$, $t=\delta 0$の時の正弦波伝搬の様子をプロットしました。下図の青色の線が$t=0$であり、オレンジ色の線が$t=\delta t$での伝搬の様子です。アニメーションも作成したのでご覧ください。
下図から、$V_{i}$の項はxの正方向に伝搬していくことがわかります。
(ここでは詳細は書きませんが、$V_{r}$はxの負方向に伝搬していきます。)

まとめ

今回は分布定数線路について記事を書きました。分布定数線路の概念は高周波回路設計において必要不可欠なものとなりますので覚えておきましょう!

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メーカー勤務のエンジニアです。 自分の趣味である、「電気回路」、「ガジェット」「株式投資」、「Python」に関する記事をつらつらと書いています